蝶が旅立つ日

 

とても春らしい、うららかな日和の午後だった。

南風が少し強い。

裏庭から声が聞こえてきた。

 

「早く! とにかく、すぐに外に出て!

 

何ごとかと思って庭に出ると、裏庭の向こう…

南から蝶が次々と現れては北へと飛び去っていく。

 

北側の道路に出てみると、もちろんわが家だけでなく、

近隣の家見渡すかぎりの屋根を超えて路を渡り、

また通りの向こうの家々を超えていく。

 

鮮やかなオレンジと黒の蝶の群れは大群というよりは

まるで風に運ばれるオレンジの花吹雪のよう。

 

羽を拡げても5センチくらいしかない蝶たちは、

陽の光にキラキラしながら、

ときにうちのレモンの木や柳の木で蜜を吸い休んでは、

またふわりと風に乗って北へと飛び立っていく。

 

この蝶の花吹雪は絶え間なく3時間以上つづいた。

いったいどれだけの数なんだろう?

 

 

 

蝶の名前はMonarch Butterflies【オオカバマダラ】

 

調べてみたら重さ1グラムにも充たないこの蝶は

2900kmもの渡りをするので有名だ。

 

南カリフォルニアの西海岸で冬を越し、交尾し、

気象条件の整ったある日、いっせいに北に向けて旅立つ。

 

曇りの日は飛ばず、1日の中で1番温かい昼過ぎから15時くらいにかけて飛ぶらしい。

小さな身体には南風の助けも借りるのだろう。

 

1年かけて、4世代かけて。

オレゴン州のボーダー辺りまで渡り、またこの地...先祖たちが渡りを始めた場所に戻ってくる。

彼らのDNAは先祖が冬を越したお気に入りの林や樹を覚えているんだろうか?

 

 

 

まさかその渡りの群れがわが家を横切るとは思わなかった。

 

翌日、LAの気温は一気に30℃近くに上がった。

冬はオレンジの蝶々たちと共に去っていったらしい。